心地よいスピードで | 札幌のオーダー家具・オーダーキッチンなら家具工房【旅する木】

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心地よいスピードで

毎朝のノンノ(北海道犬)と、まる(黒柴)の散歩は、稲穂が少し垂れてきた、つながりトンボがいっぱい飛んでいる田んぼの中を突っ切る農道。
お盆を過ぎると北海道はもう秋。
この季節、僕は毎年不思議に思っていることがある。
赤トンボは、つながりトンボにならないのはなぜだろう?
幸せそうなつながりトンボに対して、赤トンボは孤高ながら、ちょっと淋しそう。
でも、そんな赤トンボだからなのかな?秋の高い空によく似合う。

お盆休み中、中2の息子と二人で、鵡川をカヤックで川下りして来ました。
北海道の大自然の中を、息子と二人でのんびりと川下りをするのが毎年の楽しみ。
鵡川の川下りでは、ガサガサいう河原の茂みにビビっていたら、突然エゾシカが飛び出して来て、度肝ををぬかれたり、突然、カモの群れが飛び立ったりと、驚きと興奮の楽しい旅でした。

カヤックは学生時代からなので、もう30年くらいですね。
楽しい仲間と川下りも好きなのですが、僕は自然と会話しながら…
ちょっとカッコつけ過ぎですね(笑)
自然を感じながら、考えていることをまとめたり、何かの決断をする自分の気持ちが、目の前の自然の営みに応援されることなのか?などを確認したりするので、一人で川に行くことが多かったんですね。
そんな風に自然と接したいので、僕はちょっとしたこだわりがありまして…

”趣味にエンジンを使わない!”

なんだそれ?
ですよね。
でも、なんかそこは、僕にとって大事なところだったりするのです。
エンジンの音で、小さな囁くような自然の声は聞こえないじゃん。なんて思ってしまいます。
まあ、ちょっとした偏見ですね。

一人で川下りしているなんて言うと、勘のいい人には聞かれます。
上流から下流に下って、車はどうするの?

そうなんです。
カヤックでの川下りは、下った後、出発地点に置いてある車を取りに戻らないといけないんですね。
仲間と行く場合は、まず出発地点にカヤックを下ろして、半分の車と着替えをゴール地点に置いて、また出発地点に戻って、川下りをして、ゴールしたら、着替えて出発地点に車を取りに戻るんです。

でも、一人だったり、今回のように、車一台の場合は?

僕の場合、自転車をゴール地点に置いとくんですね。
先ず、息子と僕の2台の自転車をゴール地点に置いておいて、出発地点からカヤックで川を下って、ゴールしたら、自転車で出発地点に戻って、車に自転車を積んで、ゴール地点のカヤックを回収する。

なんて面倒な趣味なんでしょう!(笑)

今回、約10kmを3時間くらいかけて下ったので、ゴールしたらすぐに自転車に乗り換えて、約1時間かけて出発地点に向かいました。
当たり前ですが、川は標高の高いところから低いところに流れるわけで。
と言うことは、遊び疲れた後の自転車は、ひたすら登り坂なわけなんです。
「なんか、トライアスロンみたいだな。」なんて笑いながら、息子と夕日に照らされた川沿いの道を、ヒーヒー言いながら、ペダルを漕いでいました。

その時。

鵡川町穂別の辺りで、見覚えのある廃校の小学校を見つけました。
息子に
「この小学校、来たことある!ちょっと見てこう。」
と言って、脇道を下ると、廃校の校舎が現れて、『和泉小学校』と言う文字を見つけ、懐かしさが込み上げてきました。

当別の東裏小学校に工房を移転しようと思ったのと同じくらいの時期に、穂別町の方から
「和泉小学校を工房に使いませんか?その場合、3年間の期限つきで、毎月10万円の助成金を支給します。」っとの連絡が来たんですね。
これは僕にとっては、とっても魅力的なお話で、すぐに和泉小学校を見に行きました。
田園風景の真ん中にある当別の東裏小学校とは違って、森に囲まれた小学校で、ちょっと外界と遮断された、とても環境のいい可愛らしい小学校に心惹かれました。

そして何より、学校の裏に、大きな川が流れていて、
「ここなら、仕事前に毎朝、カヤックで遊べるじゃん!!!」
なんて心躍ったのを思い出しました。

結局、札幌からあまりに離れているということで、ここ、当別の東裏小学校を選んだんですね。
もしあの時、ここを工房にする決断をしていたら、旅する木はどうなっていたんだろう?
当然、家族もここに住んでいたわけで。
息子に
「この小学校を工房にしていて、ここに住んでいたら、どうだったかな?」
なんて聞くと、
「ここは当別より田舎だね。そしたら、あの校庭の向こうの教員住宅に住んでたんだね。あそこも寒そう。」なんて、僕らが当別に来たばかりの頃住んでいた、冬、朝起きたら建て付けの悪い室内の窓の付近に、うっすらと雪が積もっていた教員住宅と比べたりしました。

ゴール地点に自転車を置いたり、出発地点に戻ったりと、ここを車で何往復もしたのですが、車では気がつかなかったんですね。

”エンジンを使わない”
は、音や匂いといった、自然の囁きだけじゃなく、懐かしい思い出と、楽しい空想の世界に連れてってくれる。

道路の先に目をやると、オレンジ色の夕陽に照らされて、立ち漕ぎで登り坂をフラフラしながらペダルを踏んでいる息子の帽子の上に、赤トンボが止まった。
やがて下り坂になって、漕ぐのをやめて、スーッと下り始めると、安心したかのように、赤トンボは羽を下に降ろした。
颯爽と駆け下りる心地良いこのスピードが、僕と赤トンボにとって、ちょうどいい。