弱者更生施設じゃねーんだ! | 札幌のオーダー家具・オーダーキッチンなら家具工房【旅する木】

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弱者更生施設じゃねーんだ!

1日目

「旅する木で働きたいです!」
「いや〜、うちは今募集してないからね。(本当は人が欲しい)」

2日目

「やっぱり旅する木で働きたいです!」
「だから、今は募集してないんだって。(本当は募集中)」

3日目

「どうしても旅する木で働きたいです!オッケー出るまで動きません!」
「そんなに?仕方ないなあ。そしたら一緒にやってくか。(よっしゃ!)」

 

いきなりなんなんだ?って感じですよね。
人を募集する時、2回断っても食らいついてくるくらいの根性のある人、
こんなのが僕の理想なんですけどね〜(笑)。

この話を人に言うと、
「須田さん、20年前ならそんな人もいたかも知れないけど、今の若い人で、そんな人はいないよ。」と言われます。

確かにそうかも知れませんね。
僕が家具の道に入った20年前は、僕の母校の旭川高等技術専門学院(昔の職業訓練校)の木工科は20人の定員に対し、30人くらいの希望者がいたんですね。
でも、今はなんと、5次募集までしてなんとか20名を集めているんですって。
大工もそうですが、今時職人になりたいなんて若者って、あまりいないんですよね。
だから、家具屋も工務店も、若い人材の確保に本当に苦労してるんです。

旅する木もずっと募集していたんですけど、全然来なくて…。
結局正社員は諦めて、地元の広報誌にパート/アルバイトを募集しました。
すると、来るわ、来るわ。ビックリするくらい。
ただ…年齢層の高い方(50、60代)ばかり。

そんな中、いかにも若そうな男性の声の人から、アルバイト応募の電話がありました。
その時にはすでに3,4名の方が決まった後だったので、

「申し訳ないです。もう決まっちゃったんですよね。」
「そうですか。」と言った後、彼はしばらく無言。

普通、「わかりました。」とか言って、僕が「すみません。また人が足りなくなったら是非」
とか言って、電話を切るタイミングじゃないですか。

ところが、彼は無言なので、もう一度
「ごめんなさい。もう決まっちゃったんです。」っと。
すると、
「そうですか。」の後、無言。
それで、
「あの〜、もう決まっちゃったんですよね。だから、今募集してないんです。」
やっぱり、
「そうですか。」の後、無言。

???

そこで僕はある勘違いをしてしまうんです。
これってもしかして、断られても、食い下がってる???

僕の負けですね。
「あの〜、声から想像するに、若い方ですか?」
返ってきた答えにビックリ。
「高校2年生です。」
「高2?え?なんで?学校は?ああ、週末とかにアルバイトしたいってこと?」っと僕。

話を聞くと、通信制の高校で、学校に行かなくてもいいので、平日、働きたいと言うことでした。
若すぎるけど、職人になるには、若ければ若い方が良いわけで。
僕らの上の世代なんて、みんな中卒でこの道に入っているわけで。
これはいいかも!きちんと育てれば、技能五輪(22歳以下参加資格の木工技能のオリンピック)で全国大会とかに出場できるくらいにはなれるぞ。
なんて一瞬で妄想をし、
「一度工房においで。話をしよう。」
ということで、工房に来てもらいました。

工房に来たKは、なかなかのイケメンなんだけど、とにかく線が細い。
話を聞くと、中学、高校と学校に行けなくなって、今は通信制に切り替えたんだそう。
とてもおっとりとして、良い子なんだけど、弱々しい感じ。

出てくる言葉も
「あまり外に出ない」
「対人関係が苦手」
「家ではずっとゲームやってる」
「マイナス思考」
「運が良い方ではない」
「彼女はいない」
「好きな芸能人もいない」
「可愛いと思うタレントもいない」

これは時間がかかるけど、まあ、まだまだ高校2年生だし、じっくり行くか。っと思い、
「今16歳でしょ?この道にはさ、技能五輪というのがあって、22歳まで参加資格があるんだよ。来年から挑戦したとして、5回チャンスがあるわけだ。
俺は一応、1級家具技能士持ってるからさ、しっかりついてきてくれれば少なくとも、全国大会上位までは持ってくことができると思う。全国で一番になったら、世界大会に出れるんだよ。
中学、高校と何があったか知らないし、そんなことは俺にはどうでもいいんだけどさ、とりあえずは世間的に見たら、まあ、君はある意味普通のレールから落ちこぼれたわけだ。
でも、お陰で、人より早く、職人の世界に入れるわけで、職人の世界では、登校拒否だったとか、高校が通信だとか、全く関係ないわけ。とにもかくにも、技術のあるものが勝ち。勝負はただそれのみの世界なんだよね。過去をリセットできるの。
しかも、全国大会とか行ったら、新聞に出るんだぜ。しかも顔写真付きだぜ。レールに乗っかった普通の平凡な人生送ってたら、新聞に出るなんて、犯罪犯さないと無理だから。しかも、顔写真付きなんて言ったら、結構な犯罪だぜ?」

なんてことを語っていたら、Kの目つきが変わって来て、
「ここで働きたいです!」っと言って来たんですね。

それで次の日から来てもらって、素人でもできそうな仕上げをやらせたのですが…。。
遅い!
とにかく遅い!
遅いといっても、なんていうか、僕の思う、初心者だったらこれくらいだろうな。というかなり遅めの想像する時間の、何倍もの遅さ。
同じ木工初心者のパートのおばちゃんと比較しても、何倍も遅い。

初めての人には必ず、
「初めは時間は気にしなくて良いから、まずはしっかり、丁寧に仕上げてください。」というのですが、
さすがにKには
「ちょっとは時間を気にするか。」と言わざるを得ない。

この状態が2週間くらい続くんです。
しかも、同じ失敗や、注意したことを何度も何度も繰り返すんですね。

僕もストレスが溜まり、ある日、僕としてはそれほどでもないつもりなのですが、叱ったんですね。
そうしたら、次の日から来なくなり…。
LINEで連絡。
「頭が痛くてしばらく行けません。」っと。

ん〜。まあ、そういうことか。
このままもう来ないだろうな。別にいいかな。ほとんど役に立ってなかったし。
と思いつつ、
「逃げるな!いつもそうやって逃げてたら、一生逃げ続けることになるぞ。どこかで逃げずに、踏ん張らなきゃ。」
とLINEしたものの、まあ、届かないだろうな。Kの心には。と思っていました。
すると、
「すみませんでした。いつも失敗ばかりで、心折れかけてました。午後から行きます!」

おお、予想外。食らいついて来た!

Kとは、いろんな話をしたり、2人で山菜を採りに行ったりしました。
素直な性格で、倍以上の年齢の僕の話を真剣に聞いていました。

「僕は木工に向いてないと思います。」
「木工に向いてるか、向いてないかなんて、俺だっていまだに判んねえよ。ただ、なんでも一生懸命やってりゃ、面白くなってくるもんなんだよ。それに、木工なんて、向いてるかと向いてないとか関係なく、続ける能力さえありゃ、誰でも、どんな不器用な奴でも2流まではなれるんだよ。2流というのは、これで飯を食ってかれる人。そこから1流になるかどうかは、また…」
なんて会話もよくしましたね。

仕事は相変わらずでしたが、もう僕も覚悟を決めて、じっくりじっくり育てようと思っていたのですが、先日、突然、辞めたいと言ってきました。

理由を聞くと、
「旅する木に来て、須田さんといろいろと話をしたり、聞いたりしているうちに、もう一度、全日制の高校に戻って、高校生活を最初からやり直したいと思えて来ました。友達も作りたいと思うようになりました。今まで逃げて来たけど、もう一度頑張ってみようと思いました。」っと。

「マジかよ。そんなこと言われたら、ダメだなんて言えねーじゃねーか。頑張れとしか言えねーじゃねーかよ。そしたら、最後の2日間、やり残しの無いように、しっかり一生懸命作業をして辞めて行け!」
と伝えました。

ちょうどその2日間、僕はいよいよ車椅子の販売を意識して、『福祉用具専門相談員』の資格を取るために、工房を留守にしていたのですが、スタッフのくどけんから報告を受けました。
「須田さん、Kが、見たこともないようなスピードで作業してるんですけど。めっちゃ速いです。ビックリしています!今までがウソのようです!」

最終日の夜、Kから電話がありました。
「最後、須田さんに会えなかったので、お土産のお菓子を冷蔵庫に入れておきました。」
「そうなんだ。ありがとう。」
の後、無言。

なので、
「わかった。明日確認して、みんなで食べるわ。ありがとう。」
の後、無言。

いやいや、普通、「お世話になりました。」
とかいう挨拶があって、
「頑張れよ。」
と僕が言って、電話を切るタイミングじゃないですか。
Kが何も言ってこないので、

「聞いたけどさ、最後、めちゃくちゃ作業、速かったらしいじゃん。やればできんじゃん。なんでもそういう風に一生懸命やれば、楽しくなるんだよ。高校生活も社会人になっても…」

なんて最後の最後まで、説教じみたことを言う羽目になって、電話を切りました。

次の日、冷蔵庫に入ってたお菓子をスタッフと3人で食べながら、
「結局Kはなんだったんだ?何のためにうちに来たんだろう?」
なんて話をしていると、
ベテラン職人の花輪君が
「須田さんが面倒見すぎなんですよ。だから迷える子羊たちが次から次へと来るんですよ。」っと。

確かに、そうなんです。
ここ数年の間に旅する木に来ては去っていった若者たちは、
うつ病と診断されリハビリ中の者、性同一性障害で悩んでいる者、発達障害と診断された者などなど。
なにかと人生で悩みを抱えている若者たちばかり。
やっぱり共通しているのは、たくましさがなく、ひ弱なんですね。

それらの障害や病気が悪いということではないんです。たまたまうちに来た彼らを見ていると、それを隠れ蓑にして、自分の弱さを正当化していたり、すぐに逃げ込む場所にしているところがあるんですね。
そうして、Kも。

「須田さんが、そういう人たちを導く役割があるんじゃないですか?」
「いや違うな。多分俺、前世でそういう人たちをいじめてたんじゃないかな。だからそのカルマで、今世では面倒みることになってるのかも。」
なんて会話をしていると、なんだかだんだん腹が立ってくる。

も〜、旅する木は弱者更生施設じゃねーんだ!
木工で飯を食ってく!
高い木工技術を身につけたい!
旅する木で本気で楽しい人生を歩みたい!
木を通して、世の中に精一杯貢献したい!

そんな志のあるヤツ、いねーもんなのか!
旅する木は、そんな若者をいつでも待ってる。

ただ、覚えておいて欲しい。
2回は断るから…(笑)