アイヌと共に、神退治! | 札幌のオーダー家具・オーダーキッチンなら家具工房【旅する木】

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アイヌと共に、神退治!

先週末(9月5日)、カヤックで石狩川の神居古潭(カムイコタン)を下りました。
ここは、カムイ=神、コタン=すみか という名の通り、アイヌの人には、神の住む場所、聖地とされていたんですね。
神と言っても、このカムイコタンに住む神とは、魔神のこと。

船での移動が主な交通手段だった上川アイヌの人は、丸木舟でここを往来していたのですが、あまりに難所で、しばしば遭難することがあり、ここを通るたびに神々に安全を祈ったんだそう。
今でも毎年9月に、コタン祭りが開催され、魔神の霊を鎮め、交通の安全を祈っているんだそうです。

っと、これはあくまで今、調べた知識。
そんなこととは露知らず、9月の最初の晴天の日曜日、僕ら9名は、ここ、神居古潭にカヤックを浮かべました。

「いい天気で、今年の夏の渇水にもかかわらず、神居古潭は水量があって、最高〜!」

なんてみんな、陽気に漕ぎ出したものの、なんか僕は気が乗らない。
なぜかというと、ここは日本屈指の心霊スポット。

20年以上前、旭川に住んでいた頃、しょっちゅう、石狩川と併走する国道12号を走りながら、神居古潭の瀬を眺めては、いつかここをやってみたいな。でも、ここはなんか気持ちが悪いんだよな。なんか得体の知れない、人が踏み入れてはいけない、神聖というか、深闇な場所のような感じがする。なんて思って、避けてきたんです。

まあ、でも、一人じゃないし。
”神居古潭、みんなで下れば怖くない”
なんて感じで、一緒に下り始めたんです。

いい天気で、両岸を美しい緑の山に挟まれた美しい渓谷の中を下り始めると、さっきまでの不安は忘れ、気持ちの良いホワイトウォーターを楽しんでいました。

激しい落ち込みは、その前に陸に上がって、瀬の真横の岩によじ登り、瀬を見ながらコースどりを話し合う。きっとその昔、アイヌの人も、この岩によじ登って、安全なコースどりを話し合ったんだろうな。なんて想像して、その風景を重ね合わせる。(まあ、間違いなく、ピースはしてないでしょう)

神居古潭の岩は、蛇紋岩(じゃもんがん)といって、表面にヘビのようなクネクネの紋様があるんです。
ブラタモリでやってました(笑)。
確かに、どの岩にも、渦を巻いたような紋様があります。


↑↑↑蛇紋岩

みんな、スリルを楽しみながら、キャーキャー、ヒューヒュー言いながら、豪快な瀬を超えていく。

全員無事に難所の瀬をクリアーすると、川幅の狭い、トロ場(波が無い穏やかな流れ)がやって来ました。川幅が狭いので、おそらく深さは5メートルはある。川で水深5メートルって、信じられないくらい深いのです。
トロ場なので、みんな安心して漕ぐのをやめて、景色を楽しんでいました。

すると…

カヤックが揺れ始める。
なんだろう?っと思って水面を見ると、トロ場だったはずの水面に、小さな渦のような流れが発生している。
深いから、川底では水の流れが複雑なんだろうな。なんて思って無視して、また青空と山の緑を感じていました。
ところが、その渦がだんだん大きくなってくるではありませんか。
ドクンッ!! 一瞬で心臓の鼓動が高まる。
これはただ事じゃない!
と思った時には、すでに全員が渦に巻き込まれ、クルクルと回転している。
みんな慌ててパドルを漕いで、渦から抜け出て、岸を目指す。
必死に漕ぎまくる。
でも、渦はますます激しくなる。
激しい轟音とともに、カヤッカー達を渦の中心に引きずり込もうとする。
すでに沈(ひっくり返ること)してる人もいる。
助けなきゃ!と思うんだけど、自分が助かることに必死で、そんな余裕はない。
激しい渦は、僕たちを渦の中心に引きずり込んで、何人かの姿はもう見えなくなってしまった。
僕は死にもの狂いでパドルを漕いで、水の壁をよじ登り、あと少しで越えられる!という瞬間、なにか得体の知れない力で、カヤックの後ろを引っ張られて、渦の中に引きずり込まれました。
回転しながら、果てしないと思えるような深さの川底に引っ張り込まれてしまいました。

その後のことはよく覚えていない。
気がついたら、さっきのトロ場の水面の上に浮かんでいました。何事もなかったようにカヤック に乗って。
仲間を見渡すと、他の人もカヤック に乗って浮かんでいる。
ただ、みんな鬼のような形相。

え?なに?!なんだったんだ?
他の人も互いに見回して、安全を確かめ合いました。

辺りを見回す。
シーンと静まり返っている。
同じようでなにかが違う。
なにか?
なにか漂う雰囲気が違う。
別の世界のような。

!!

並走しているはずの国道12号がない。遊歩道も。
見えていた橋もない。
山の緑が同じ緑なんだけど、その深さが違う。深く、畏れ深い。

ここは…

よく見渡すと、前の方に何艘もの丸木舟に乗った人がいる。
カヤックを漕いで近づいてみる。

!!!

アイヌの人たちだ。

アイヌの人たちも僕らに気づいて、びっくりしている。

酋長らしき人「お前達は何者だ?」
僕ら 「…」
酋長 「和人か!和人がなぜここにいる?」
僕ら 「…」
酋長 「しかもその船はなんだ?木じゃないのか?」

僕らは唖然としてなにも話せない。

酋長 「和人か!和人がなぜここにいる?」
Iさん 「神居古潭の川下りをしていたら、渦に巻き込まれて、気がついたらここに…」
酋長 「お前達も、ヌプリカムイの応援に来たのか。」
僕たち 「…」
酋長 「これから我々に災いをもたらすニッネカムイをヌプリカムイが成敗してくれようと、戦いが始まるのじゃ。」
僕たち 「ニッネ…?カムイ?」
酋長 「ニッネカムイは、我々がここを通ろうとするのを邪魔するのじゃ。それを見かねたヌプリカムイがニッネカムイを成敗してくると言ってくれた。だから我々は、ヌプリカムイの手助けをしようと思って集まってるのじゃ。」
僕たち 「神様と神様の戦い?」
酋長 「そうじゃ。ニッネとは、悪という意味じゃ。ニッネカムイは”悪い神”、つまり魔神じゃ。ヌプリは山。ヌプリカムイは山の神、つまり熊の頭(かしら)のことじゃ。我々アイヌは、全ての生き物に神が宿っていると考えておる。我々に災いをもたらす出来事も神の仕業。だから神に祈りを捧げもするし、神退治もする。」
僕たち 「はあ…。」
酋長 「お前達も手伝え!ニッネカムイをやっるけるのじゃ!そのために来たのじゃろ?」
僕たち 「…」
酋長 「お〜、いよいよ始まるぞ。みんな、用心しろよ。」

巨大な黒い岩のようなゴツゴツしたニッネカムイ。
そのニッネカムイに対峙しているヌプリカムイこと、熊の頭(かしら)。熊にしてはデカい。見事に黒光りした神々しさ。

ヌプリカムイ 「人力を超えた、与えられら力を、人々の災いをもたらすために使うことは、許さん!」
ニッネカムイ 「私を悪者として崇めておるのは人間の方だ。この川が暴れるのは、私とは関係のないことだ。」
ヌプリカムイ 「今さらそんな言い逃れをしても無駄だ!覚悟しろ!とりゃ〜!!」

ヌプリカムイが牙を剥いてニッネカムイに噛み付く。
ニッネカムイ 「ハッハッハッ、そんなもの、痛くも痒くもないわ!ウウウ〜リャ〜!」
ニッネカムイ、ヌプリカムイの動体を掴み、持ち上げて放り投げる。
ドッス〜ン!
10メートルほど放り投げられて、大きな岩に体を打ち付けられるヌプリカムイ。

アイヌの集団 「あ〜、ヌプリカムイ!頑張れ!」

また体を起こして立ち向かうヌプリカムイ。
また放り投げられる。
それでも立ち向かう。

アイヌの人達 「ヌプリカムイが死んでしまう。」
酋長 「誰か、我々の創造神、サマイクルに助けを求めよ。こうなったらサマイクルしかニッネカムイを倒せん。」

すでに泥だらけでヨロヨロになっている巨大な熊、ヌプリカムイ。

ニッネカムイ 「もういいだろう。降参するか?ヌプリカムイ!」
ヌプリカムイ、背中で息をしながら 「まだまだ〜」
ニッネカムイ 「そうか。それならこれでとどめだ〜!」
ニッネカムイの腕をグルグル回すと、その腕先に何十匹もの蛇の頭が現れてくる。
ニッネカムイ 「必殺!蛇紋岩パ〜ンチ!!!」

ニッネカムイの腕の蛇がヌプリカムイに襲いかかる。
とその瞬間。
キランッ!
電光石火の如く、刀がニッネカムイの腕の蛇の頭を切り裂いた。
ニッネカムイ 「グッ、グワッ!何者?」

黄金色の服なのか、体そのものなのか、輝くオーラのようなものは、人と思えば人のようにも見え、動物と思えば、動物のようでもあり、鳥といえば鳥のようでもあり、それは変幻自在で、物体としての存在を超えたものであった。

酋長 「サ、サマイクル!」
アイヌの人達 「サマイクルだ!!サマイクルが来てくださった!」
ニッネカムイ 「サマイクル?伝説ではなかったのか。」
サマイクル 「ニッネカムイよ、わかっている。もうよいであろう。」
ニッネカム 「わかったようなことを言うな!サマイクル!」

サマイクルに襲いかかろうと、ニッネカムが腕を振り回しても、掴もうとしても、パンチを繰り出しても、全く当たらない。
ヌプリカムイとの戦い、サマイクルへの執拗な攻撃で、すでにニッネカムイの体力は限界になりつつあり、フラフラしている。

酋長 「よし、ニッネカムイが弱り始めてるぞ。全員でニッネカムイの足を押さえるのじゃ!」
アイヌの人達、一斉にニッネカムイの足を押さえようとする。
酋長 「何をしてる!お前達も手伝え!」

唖然としていた僕らも慌てて大きな岩のようなニッネカムイの足を取り囲んで押さえる。
弱ってるとはいえ、神の力を持つニッネカムイが、足を振り回すと、アイヌの人たちも、僕らも振り飛ばされる。

Iさん 「ロープだ!レスキューロープでニッネカムイの足を縛るぞ!」
僕らは各自持っているレスキューロープを結んだ。
結んだまではいいものの、誰かがニッネカムイの足下に入り込んで、縛りつけなきゃいけない。
たまたまロープの先端を持っていた僕が行くことに。

僕 「マジか〜。なんか今日は朝から気が乗らなかったんだよな。こんなことになるなんて…」
なんて文句を言いつつ、相変わらずサマイクルへの攻撃をしているニッネカムイの隙を狙う。

ニッネカムイがパンチが空ぶって、ヨロっした瞬間を狙って、僕はニッネカムイの足元にダッシュ。気付かれないようにニッネカムイの足を3周回って縛ろうとする。
でも、手が震えて全然縛れない。

カヤックメンバー達 「落ち着いて、落ち着いて!」
酋長、アイヌの仲間達に向かって 「お前達、ニッネカムイの気を引くのじゃ。こっちに気を引くのじゃ!」
アイヌの人達、ニッネカムイに小石を投げたり、ヤジを飛ばしたりしている。

僕 「落ち着け〜、俺、落ち着け〜」
心臓が爆発しそう。
手が震えてなかなか結べない。
不安がよぎる。
もしかしてニッネカムイは俺に気がついているかも?
恐る恐る上を見上げると?
ニッネカムイと目が合う

ドキッ!

しかし、その目は慈悲深く、澄み切った静かさ、そう、神居古潭の水そのもののよう。
なぜか僕の心は落ち着き、手の震えもなくなり、しっかりとロープを縛りつけた。
その間、ニッネカムイは足を動かさなかった。

走ってみんなのところに戻る。
カヤックメンバー達 「やった〜!よかった!よかった!」
酋長 「よし、みんなで紐を引っ張るぞ!せ〜の!」

アイヌの人たち、カヤッカーたち、みんなで力を合わせてレスキューロープを引っ張る。
ニッネカムイ 「なにをこんなもの〜!」
足を振り回して、ロープを切ろうとするが切れない。
ヨロめいて、ニッネカムイが倒れかかる。
大きな岩のニッネカムイが、ロープを引っ張っている僕らの上に覆いかぶさって来る。
全員、悲鳴をあげながら、逃げる。

とその瞬間、サマイクルの黄金の刀がニッネカムイの体を突き抜ける。
ニッネカムイの頭は右岸へ転がり落ち、動体は左岸に飛ばされる。
ニッネカムイの胴体が左岸に崩れ落ちた衝撃で、川の水面が津波のように盛り上がり、僕らに襲いかかって来る。
逃げようとする僕らとアイヌの人たち。
波は速く、飲み込まれてしまう。
深く水中に引きずり込まれる僕たち。

その後のことはよく覚えていない。
気がついたら、さっきのトロ場の水面の上に浮かんでいました。何事もなかったようにカヤック に乗って。
周りを見回すとそこにはいつもの風景がありました。
国道12号が併走し、遊歩道があり、遠くの川下に橋が見える。
山の緑も穏やかな緑。

あれ?

他の仲間を見渡すと、何事もなかったかのようにトロ場をパドルで漕いでいる人、風景を楽しんでいる人。何事もなかったように、川下りを楽しんでいる。

Iさん 「須田さん、ほら、これ。この岩が”魔神の首”って言われている岩だよ。」
僕 「”魔神の首”?なんなんですか?それ。」
Iさん 「なんか、アイヌの神話かなんかに出てくる岩なんだって。」
僕 「そうなんですね。へ〜。」
みんな 「とりあえず写真撮っておこう!」

写真を撮り終えると、みんな漕ぎ出して行きました。
僕はなんか去り難く、”魔神の首”と呼ばれる岩の前に一人、残っていました。

僕 「ニッネカムイ、あなたは本当はアイヌの人を守っていたんだ。この危ない川に人が近づかないように。そうだろ?ニッネカムイ。」

魔神の首 「…」

僕 「でも、アイヌの人の暮らしには、川を交通手段にしなければならなかった。だから自分が生贄になって、岩になることで、激流を堰き止めて、穏やかにしたんだね。お陰でアイヌの人は安全に舟行ができて、今、僕たちもこうして遊ぶことができている。」

遠くから仲間の声がする。

「ゴールまで後どれくらいですか?」
「もうすぐゴールですね。」
「もうゴールか〜。いや〜、楽しかったですね。神居古潭。」
「紅葉の時期とか、最高じゃないですか?」

僕 「ありがとう、ニッネカムイ。紅葉の時期にまた会いに来るね。」

波のないトロ場に、僕のカヤックが通り過ぎる波紋だけが、遥か向こうまで広がっていく。

愛してる