大丈夫。僕が新しい命を吹き込むから。 | 札幌のオーダー家具・オーダーキッチンなら家具工房【旅する木】

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大丈夫。僕が新しい命を吹き込むから。

工房の体育館のすぐ脇に、切り株があります。
ハルニレの切り株です。
12年前、僕がここに工房を移転してすぐに、切り倒すことになったんですね。
今日は天気が良くて、さっき、工房の周りを散歩していたら、木口に新しい命を育んで、いい感じに次の命にバトンタッチしつつあるんです。

当時、僕も若く、まだ駆け出しだったので(笑)、

「僕が新しい命を吹き込むから。」

なんて意気込んでいたのですが、
生意気な僕がジタバタしなくたって、ちゃ〜んと自然は、ゆっくりと、そして確実に、新しい命を吹き込むんだな〜。なんて思いながら、鼻を近づけると、もうハルニレ独特のきつい匂いもなくなっていました。

12年という年月で、僕の気持ちもちょっとづつ変わってきたのかな?
なんて感じます。

当時のブログを読み返してみようかな?
なんて思ってね。

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2009年4月27日 つむじ風通信より

工房の体育館のすぐ横に、直径1メートルくらいの大~きなハルニレの木が2本、立っています。
きっとここが原生林だった頃から切られずに立っていたんでしょうね。
東裏小学校が開校105年で幕を閉じたのですから、それ以前のものですね。

寿命としてはまだまだなのですが、立っていた場所が悪かったのでしょう。
側溝の脇だったため(本当は側溝が木の脇に作られたのですが…)根が伸ばせず、大木を支えるだけの栄養を補給出来なかったんですね。半分腐りかけて、数年前の様な北海道には珍しい、大きな台風が来たら、おそらく保たないだろう。
ということで、切り倒されることとなり、今日、業者の方が切りに来ました。

チェーンソーで、手際よく枝が落とされ、いざ本木に取りかかった時、何と、ハプニング!!
すっかり空洞化した木の中を、ある動物が住処にしていたんですね。
何だと思いますか?

ラスカル、いや、アライグマです。しかも大きなアライグマ。
偶然居合わせた近所の農家の方が捕まえようと追いかけ、僕も後を追ったのですが、あえなく逃走。
アライグマがいるということは聞いていたのですが、見たのは初めてで、しかも知らなかったけど毎日すぐ横に居たわけで…。

とても可愛らしいアライグマ、でも農作物をことごとく食べ荒らして、食べ尽くしてしまうんだそうで、この辺の農家の方は困っているんだそうです。
もともと外来種なので、日本にいてはいけない動物なんですね。強い繁殖力で、農作物の被害も深刻化していて、そのうち生態系も変えてしまう恐れがあるのです。
悲しいけれど、日本では絶滅させなきゃいけないんですね。

アライグマの住処だった一本目は、完全に空洞化しており、明日倒れてもおかしくない状態だったのですが、2本目は、今すぐどうこうって状況ではないと思いました。
それでも半分くらいは腐っていて、切ることになっていたようで、作業が進められていきました。

僕は仕事していたのですが、カーテンのない体育館の窓から、毎日僕の仕事している姿を見ていたハルニレの大木が、本当はまだ生きられるのに、人間の都合でこのような環境になり、そして今、人間の都合で切り倒されようとしていることがとても気になっていました。

そんなことを言ったら、僕が毎日使っている木々たちは全部そうなんですよね。
一時期、そのことで悩んだこともあったのだけど、だからこの道から逃げるのではなく、だからこそ、一枚でも多くの木を、僕の手で、長く、愛着を持って使ってもらえる家具にして、新しい命を生きて欲しい。と思ったのです。

枝が落とされ、上から刻まれていって、最後根元にチェーンソーを入れる時、この倒される瞬間を僕は見ておかなきゃいけない。最後のハルニレの叫びを、痛みを、僕が感じなきゃいけない。と思い、仕事を止め、外に出てずっと見ていました。

直径1メートルの大木は、職人さんが刻みを入れて、もう倒せるだろうと、巻きつけたロープをトラックで引っ張ってもなかなか倒れません。

僕は心の中でハルニレの木を応援しながら、さっきのアライグマのことを考えていました。
「生きていたいよね。人間は勝手だよね。」

再びチェーンソーを深く入れて、またトラックで引っ張ると、
「・・・ミシッ・・・、ミシッ・・、ミシミシ・・・ミシミシミシ、バキバキ・・・バキバキバキバキ・・ドーン・・・・・・」と音を立てて、倒れました。

折れた木口に、顔を近づけると、ニレ独特の、ちょっときつい香りがしました。
そして昨日降った雨水を、さっき吸ったのであろう水が滴っていました。
待ちわびた春を迎え、いっぱい葉を付けようと今、一斉に水を吸い上げている、木が、一年で最も脈動的な時ですから。

生まれて初めて横になったハルニレの木に、初めて声をかけました。

「大丈夫。僕が新しい命を吹き込むから。」

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ちなみに、僕が吹き込んだ命は今、こんな感じになっています。