心の中の秘密基地 | 札幌のオーダー家具・オーダーキッチンなら家具工房【旅する木】

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心の中の秘密基地

今、僕の秘密の場所に来ています。
時々、心が落ち着かない時、自然の中で一人になりたい時なんかに来る場所。
こんな場所を持っているといいんですよね。

子供の頃、近くの工場の裏の雑品置き場に、子供3,4人が入れる大きな大きなドラム缶のようなものがあって、偶然そこを見つけた僕と○○(名前も忘れちゃった…)は、すぐにそこを秘密基地にしたんです
「この秘密基地は僕たちだけの秘密しによう。誰にも教えちゃダメだよ。」なんて言って、遊んでいたものです。

そこに行くには、工場の裏の壊れかけたブロック塀の隙間からモゾモゾと這って入らなければならないんですね。

幼い僕は、この塀の穴は異次元への入り口のような気がして、秘密基地にいると、そこは、さっきまでの学校や、自分の家のある世界とは違う、自分だけの異空間にいるような気になって、心が落ち着いたものです。

さらに子供の僕の心のワクワクを満たすには十分過ぎるくらいの魅力的なガラクタがあちこちに散乱していて、それらの中から気に入ったものを拾ってきては、基地の中に並べていました。
金属を研磨するための直径2センチくらいの丸い青い色をした石が一番の宝物でした。

この狭い世界だけが、僕の心と深く繋がっているというか、僕の心の中の世界そのもののような気がして、そこにいるだけでなんか心地よく、満たされていたんですよね。

 

いつからだろう?
世界は果てしなく大きく、複雑で、自分の心との間に隔たりを感じるようになったのは。
本当はもっとずっとずっと小さい世界、言葉も、「ありがとう」、「嬉しいね」、「楽しいね」、「いいよ」、「美味しいね」、「大好き」くらいで足りるくらいの世界の中で暮らしていけたら幸せだなぁ。なんて思ってしまいます。

 

「誰にも言っちゃダメだよ。」という約束ほど破ったり、破られたりするもので、破ったのは僕なのか、友達なのかわからないけど、いつの間にか、何名かのクラスメイトが出入りするようになり、僕だけの特別な場所は、僕だけのものではなくなり、あんなにワクワクと魅力溢れる場所だったのに、いつの間にか、学校や家のある、いつもの空間に飲み込まれてしまったようで、通わなくなってしまいました。

 

仕事の最中、ふっとブログを書きたいな。と思って。
「ちょっと自然の中でブログ書きたいから、出てくるね。」というと、「天気がいいから、今日はいいですね。」なんて快く受け入れてくれるスタッフの花輪君やくどけんには本当に感謝です。ありがとう。

 

ということで、今、僕の秘密の場所に来たんです。
当別ダムの裏の方。
来てみたらビックリ。
今年、北海道は災害レベルの水不足なんです。2ヶ月ほどまともな雨が降っていない。それで、ダムの水位がとっても低くなっていて、なんと、ダムに沈む前の街の面影が現れているんです。道路とか、家が建ってただろう平地みたいな場所とか。

本当は違う内容のブログを書こうと思ってここに来たんだけど、この風景を見ていたら、なんかジーンと来ちゃって…(笑)。

 

ああ、そうか。ここには暮らしがあったんだ。
ダムの建設で、人だけがいなくなったけど、その他の暮らしは、そのままひっそりと湖に沈んだんだ。

ここで暮らしていた人は、ここをどんな思いで眺めるんだろう?
心の中の風景と、重ね合わせるのだろうか。
交わした会話や、感じていた気持ちを拾い集めるのだろうか。

そんなことを考えていたら、なんか急に、あの幼き頃の秘密基地のことを思い出しました。
そして、小さな手の平が、僕の心の奥で、何かを探し始めるものだから、「僕の心には、君が探しているものがあるのかな?」なんて聞くと、ちょっとはにかみながら、広げた小さな手の平には、青い色をした丸い石が三つ。
「どこにあったの?」
「忘れ物の引き出しの中。」
「君は宝物を見つけるのが上手だもんね。ありがとう。」
なんて会話をしました。

あの、僕の心を満たした秘密基地は今どうなってるんだろう。もう40年数年も前だもん。あるわけがないよな。
でも、僕の心の中にはまだあったんだ。
あの頃の僕の心の大きさと、感じている思いがそのまま現れた、小さくてワクワクの詰まった世界。そして、宝石のようなガラクタが。

そのことが嬉しくて、辺りに誰もいないことをいいことに、「ありがとう〜!」なんて大声で叫んじゃおうか。なんて思って車から外に出ると、いつの間にか日が沈み、ひんやりと冷たい風さえも心地いい。

突如現れた、湖に沈んだ暮らしの風景に、その向こうの湖に、オレンジから青に変わりゆく大空に向かって…
やっぱり恥ずかしいから、心の中で「ありがとう」と呟きました。
ん〜、恥ずかしがり屋はあの頃のままか。

 

大きな自然の中で鳥や、虫のさえずりを聞きながら、好きな文章を書いていると、世界が大きく、複雑になり過ぎたと思っていたけれど、自分の心の中の異次元のトンネルをくぐれば、そこには僕の心と感じている思いがそのまま現れた世界があるじゃないか。

 

いつか雨が降って、ダムの水が増えて、この街がまた湖に沈んだ時、ゆっくりと静かに水の中に入って行って、小学校から家に帰る途中の、芝犬がいる家の庭を、植木鉢に気をつけながら、見つからないようにこっそりと通って、細い裏道を通り過ぎて、畑を突っ切って、工場の裏の塀の隙間を四つん這いになって潜り抜けたら…

もしかしたら、あの、僕の秘密基地にたどり着けるかも知れない。

愛しています。